秋田市が設立母体となり、来春2013年4月に開学する「秋田公立美術大学」は、長い間、美短の愛称で親しまれてきた秋田公立美術工芸短期大学の施設などをそのまま引き継ぎながらも、他にない全く新しい基本理念やカリキュラムのもと、東北以北のエリアでは、初にして唯一となる4年制の公立美術大学として誕生します。
この秋田公立美術大学の開学にあたり、新たに制定される校章(マークとロゴ)の基本デザインを、誠に光栄なことに、私が担当させていただきました。
ご承知のように、私の本業は現代美術家ですので、ロゴマークなどのデザインを依頼されることは普段ありませんから、今回の校章デザインは絵画作品を制作する以上に骨が折れる作業でしたし、大学の顔ともいえる校章のデザインは、なんといっても責任重大。心してとりかかりました。
まずは手始めに、世界中の企業や学校などのロゴマークを調べました。それにしても、世界中には数えきれないほどのマークが存在しますよね。普段の生活でなにげなく見ているロゴマークですが、毎日いろいろ調べているうちに、街を歩いていてもロゴマークばかりが目に入り、寝ていてもロゴマークにうなされそうになりました・・・。(笑)
日本の様々な大学の校章もたくさん見ましたが、教育機関のマークということもあってか、またデザインされた時期が古いものも多く、校章らしい校章というか、無難で手堅い印象の校章がかなり多いことがわかりました。せっかく現代美術家の私がデザインするのだから、一般的な大学の校章とはひと味違う、新しく誕生する美術大学の校章に相応しく自由で伸びやかでオリジナリティ溢れるような校章にしたいという思いで、デザインに取り組みました。
今回、指定されたデザイン条件をクリアした上で、秋田公立美術大学の校章デザインに必ず盛り込むべき要素として考えたことは、以下の3つ。
(1) 本学の掲げる4つの基本理念を象徴的に表現すること。
(2) 本学の立地する秋田市の地勢、自然環境をできる限りシンプルに視覚化すること。
(3) アートを学び研究する大学らしくオリジナリティがあり、視覚的に美しいこと。
そしてその結果、でき上がったものが、ご覧のようなデザインの校章というわけです。
校章としてはかなり珍しいと思われるほど横長で、躍動感と連続性のある伸びやかな形状のこのマークは、本学の英語名である「Akita University of Art」の頭文字「A、U、A」を繋げたような形になっており、ライトグリーンのラインは秋田市から望む太平山の緑豊かな山並みを表わし、ピンクのラインは夕日に美しく染まる日本海の波間を表現し、秋田市の有する豊かな自然環境を可能な限りシンプルに視覚化しています。秋田というと、雪国とか穀倉地帯というイメージですが、まず、そういう先入観を取り払った上で秋田市の地勢や自然環境を見てみると、朝日が昇る東側にはなだらかな峰々が連なる太平山連峰を有し、西側は美しい夕日が沈む雄大な日本海に臨んでいます。私が初めて秋田市を訪れた際に素敵だなと感じたのは、高台から見たその2つの風景でした。秋田市にはとても自然豊かな山と海がある。そんな素晴らしい環境の中に本学はあるということをなんとかシンプルに表現したいと試行錯誤し、このような形にたどりつきました。
また、その山並みと波間を表現したそれぞれのラインは組み紐のように、交差しながら一体化しています。これは、異なるジャンルをクロスオーバーしながら(横断的に)アートを学び、地域と大学、地域と学生がつながり、創造し、ともに発展し、世界に向けて新たな価値観を発信してゆくという本学の基本理念を象徴的に表わしています。さらに、4つの峰にも見える部分は、本学の4つの基本理念それぞれを表わすとともに、本学校舎(アトリウム棟やシンボルタワーなど)に多用されている三角の形や実習棟(旧国立新屋倉庫)の三角屋根をも想起させる形態となっています。
このマークに使用されている2色のうち、ライトグリーンは太平山の山並み以外に、秋田市の市章の色であったり、千秋公園のハスの葉などを、またピンクは沈む夕日に美しく染まる日本海の波間以外に、秋田市の花であるサツキや秋田新幹線のイメージカラーなどといったものを、秋田市民の皆さんには連想していただけるかもしれません。さらに、この2色は、色相環上の補色関係に近く、互いの色彩を際立たせる効果があり、本マークの可視性や訴求力を一層向上させる狙いもあります。
それにしても、大学の校章としては極めて特異ともいえる形状のこのデザインが多くの本学関係者の支持を得、採用されたわけですが、この一事をとっても、本学の思想的な柔軟性や許容範囲の広さがうかがい知れるのではないでしょうか。制作者としましては、この校章がこれから秋田公立美術大学とともにあり、学生や本学関係者のみならず、広く市民県民の皆さんに親しまれ、愛される存在となっていくことを切に願います。