先日、5回目となる絹谷幸二賞(毎日新聞社 主催、三井物産 協賛)の受賞者が発表され、東京・神田の学士会館で贈呈式が行なわれました。今回は、絹谷幸二賞に橋爪彩さん、奨励賞には今津景さんが選ばれました。
おめでとうございます!
この絹谷幸二賞は、若手画家(35歳以下、国籍は不問)を応援し、具象絵画の可能性を開くことを目的に、画家であり教育者でもある
絹谷幸二さんの提案と資金提供により創設された推薦制の美術賞で、全国の美術関係者などの推薦人により推薦されたそれぞれの受賞候補作家が、その前年に開催した展覧会の内容や出品作品の質などを選考委員が審査し、毎年、絹谷幸二賞・1名と奨励賞・1名が選ばれます。今回の奨励賞に輝いた今津さんは多摩美術大学の後輩でもあり、受賞対象となった第一生命ギャラリーでの個展も、偶然某所で彼女に会った折にお知らせいただき観に行った(
その折のブログ記事)ので、より親近感を覚えます。
私自身が第2回絹谷幸二賞を受賞したのは、2010年のこと。学士会館での贈呈式の模様やその時に絹谷さんからいただいた激励のお言葉などが、まだ鮮明に思い出されます。私の場合も、今津さんとおなじく、第一生命ギャラリーで開催した個展(VOCA展での受賞者には特典として、東京・日比谷にある第一生命本社ビルにある第一生命ギャラリーで個展を開催する権利が与えられる。また、展覧会の開催にあたってはその開催経費も一定額まで第一生命より支給される)とそれまでの美術家としての活動が評価されての受賞となりました。受賞後は、美術家としての活動以外でも、大学での特別講義や地域での社会貢献活動など、活動と人脈の幅がさらに大きく広がりました。来月からは、東北地方以北では初にして唯一となる4年制の公立美術大学として秋田市に開学する秋田公立美術大学にて、美術学部美術学科ビジュアルアーツ専攻の准教授として、現代絵画分野を担当し、後進の指導と育成にも当たらせていただきます。
今年の絹谷幸二賞の贈呈式で、絹谷さんが「賞の賞味期限は3年半」と述べられたそうで、「その<半>の部分はなんですか?」と記者の方が尋ねられたところ、「受賞後3年経って何の収穫もない場合は、あと半年、成果を出す時間を残しておかないと焦っちゃうでしょっ」というお答えだったとか。絹谷さんご自身がお若い頃にご苦労された実体験をも踏まえた、若手の気持ちがわかる大先輩美術家ならではの優しさが感じられるお話です。
この賞の最大の特徴といえば、やはり、優れた若手画家に対し、現在活躍されている画家が直接的に支援を行なうということではないでしょうか。ただ、絹谷さんご自身のお名前を冠した賞ではありますが、受賞者の選考に際しては、賞の公平さを保つため、絹谷さんご本人は一切関与されず、美術評論家や美術家などが務める選考委員に評価を一任され、ご自身は資金提供のみに徹しておられます。また、常に新たな評価の視点を同賞に導入し、それを反映させるために、選考委員は数年ごとに入れ替わります。こういう賞を提案し、実際に創設し継続させることは、並の美術家には到底できることではなく、若手を応援し、結果的には美術業界全体を盛り上げようという心意気は、高い見識と美術の分野に留まらない幅広い社会性を兼ね備え、「人間讃歌と愛」を作品のテーマとする、この日本を代表する美術家ならではのものと言えるでしょう。